東京高裁 役員退職金の損金算入で5割増し許容の地裁判決を覆す
2018/08/03
東京地裁は平成29年10月13日、税務署が算出した「平均功績倍率」による役員退職金について、その5割増の値を適用した金額まで損金算入を認める判決を下したが、東京高裁は今年4月25日、それを覆す判断を示した。
この争いは、北陸の製造業の会社(被控訴人)が死亡退職した元代表取締役Bへの退職慰労金の支給額4億2000万円を損金の額に算入してその事業年度分の法人税の確定申告をしたところ、三条税務署長がこの退職給与の額のうち不相当に高額の部分である2億875万2000円については損金の額に算入されないとして、会社に対して更正処分と過少申告加算税の賦課決定をしたことから、会社側が更正処分等の取消しを求めていたもの。
不相当に高額な退職給与の額を算出するための平均功績倍率法は、対象の会社と同じ業種、会社の規模等から倍半基準により抽出された他社=比較法人の「役員退職金」の事例実績から、最終報酬月額×勤続年数の値で除した功績倍率の平均値=「平均功績倍率」を求め、対象となる退職役員の最終月額給与の額に、その役員のその内国法人の業務に従事していた年数および功績倍率を乗じて算出する。
税務署側は240万円×27年(勤続年数)×3.26(抽出された同業他社の死亡退職慰労金の支払い実績から求められた平均功績倍率)=約2億1千万円までが法人税法上損金に算入される金額で、これを超える金額は「不相当に高額な金額」としていた。
東京地裁は、納税者が一般的な認識の可能性として税務当局のように平均功績倍率について厳密な調査は期待できないことに配慮し、税務当局が主張する「平均功績倍率」の5割増しの値まで許容する判断を示していた。その理由は「『その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況』を考慮するに当たり、公刊物等を参酌することで上記の支給の状況を相当程度まで認識することが可能であるとは解されるものの、被告が行う通達回答方式のような厳密な調査は期待できないから、このような納税者側の一般的な認識可能性の程度にも十分に配慮する必要があり、役員退職給与として相当であると認められる金額は、事後的な課税庁側の調査による平均功績倍率を適用した金額からの相当程度の乖離を許容するものとして観念されるべきもの」との考えからだった。
しかし東京高裁は、平均功績倍率法について「同業類似法人における功績倍率の平均値を算定することにより、同業類似法人間に通常存在する諸要素の差異やその個々の特殊性を捨象して平準化された数値を出すことに意義がある(中略)類似法人の中に算出された平均値より不相当に高い功績倍率を用いた法人があったとしても、平均値を算定することの合理性は失われない」と説示。「公刊資料における類似法人の功績倍率は、個別の法人および役員の特別の事情が明確にされたものではないと(会社側は)主張するが、十分な事例情報は掲載されている」と強調した。
そのうえで東京高裁は具体的なサンプル抽出過程についても問題はないとし、結局、平均功績倍率の5割増しについては言及することなく、当初の税務署側の計算を支持、一審判決の敗訴部分を取り消した。